教育のあり方 2011 1 10
これは、私が大学生の時の話です。
縁あって、私は、中学生向けの塾の講師を
引き受けることになりました。
正直に言えば、当時としては、
高額の報酬につられて塾の講師を引き受けたのです。
しかし、感想としては、
「いくら高額でも、苦労が多すぎる」と思いました。
「いや苦労が多いから、高額なのか」とも感じました。
当時の塾は、まだ組織化・法人化されてなく、
教育熱心な人が、地元で塾を開いているという感じでした。
何が苦労したのか。
それは、塾なのに、クラス編成が学校と同じでした。
だから、授業のレベルをどこに合わせてよいのか苦労したのです。
学力が中程度の生徒に合わせると、
学力の低い生徒が不満を持ち、授業を聞いてくれないのです。
一方、学力の高い生徒も、
「塾のレベルが低い」という不満を漏らすようになりました。
学力の低い生徒については、時間をかけて、
ゆっくり繰り返し教えてあげると、授業内容を理解してくれました。
ところが、そういう「ゆっくり、繰り返し授業」をしていると、
学力が中程度の生徒までもが不満を持つようになったのです。
「塾なのに、授業の進度が遅すぎる」と。
そこで、塾の講師が集まって話し合ったことがありました。
「やはり、クラス編成を能力別クラスに分けるべきだ」と。
これに対して、「まだ中学生なのに、
差別感を植えつけることはよくない」という意見もあり、
「補習で対応すべきだ」と主張する講師が多かったかもしれません。
しかし、補習で対応するとなると、
生徒の帰宅時間が遅くなること、
塾の講師の労働時間が長くなること、
残業代を払うことになるので、塾の経営を圧迫することなど、
いろいろなデメリットがありました。
結局、塾は、クラス編成を能力別クラスにしたのです。
これで、万事解決したかと思ったら、新たな問題が発見されたのです。
あるクラスの数学を担当したところ、
いくら丁寧に教えてあげても理解してくれないので、
授業を中止して、基礎的な学力を調べたら、
なんと、分数が全く理解できてなかったのです。
しかし、高校受験まで半年となった時点で、
いまさら小学校の分数を教えたところで、どうにもならないということになり、
社会科などの暗記科目に重点を移すことになりました。
同僚の講師からは、
「分数ができない子供を小学校から卒業させるなんて。
小学校にも、留年制度を設けるべきだ」という厳しい意見が出ていましたが、
私は、別のことを考えました。
「分数ができない子供が高校に入学して、高校の授業は成り立つのか。
高校の数学といえば微分・積分。それなのに分数ができない生徒。
高校の先生は、途方にくれるのではないか」と。
職業教育 2010 11
20
最近、メディアでは、大学生の就職難という報道が多くあります。
これは、主に「国内の不景気」と「長期にわたるデフレ」が原因と思われます。
ただし、職業における「ミスマッチ」はあると思います。
少し昔話をしましょう。
私の中学校時代の同級生は、30人クラスで、
大学に進学した人は、10人にも満たなかったと思います。
中学校時代、「僕は大学に行く」と級友に言うと、
「お前は、そんなに勉強が好きなのか」と、よく、からかわれました。
高校は、進学校に行きましたので、
「もう、そんなことで、からかわれることはない」と安心していたら、
今度は、近所の人たちに、同じようなことを聞かれたのです。
多くの同級生たちは、卒業後、どこへ行ったのか。
高校卒業後、あちこちにできた工業団地に就職したケースが多かったと思います。
当時は、工業高校や、「高専」と呼ばれた高等専門学校に人気があったのです。
女性は、商業高校だったと思います。
今は、みんな普通高校に人気が集中して、
工業高校や高専が苦戦していると聞きます。
そして、長年続く少子化に反して大学の数は増え続けました。
大学の学問とは、抽象化の学問です。
社会全体のニーズを考えると、
抽象化した学問を取得した人に対するニーズは、一定数しかないと思います。
にもかかわらず、大学の数は増え続けました。
私の故郷では、昔は、大学というと、
国立大学と、私立大学が二つぐらいしかありませんでした。
今は、私立大学が、各地に、たくさんあります。
「地元の工業団地に就職先がなくなったから、
その受け皿として、私立大学が増えた」と言う人もいます。
私が思っていることは、抽象化教育に力を入れすぎて、
職業教育を軽視してきたように感じています。
日本人の手先の器用さは、世界トップレベルです。
そんな日本人が、みんな、抽象化の象徴である大学に行くのは、少し変だと思います。
日本人の手先の器用さを生かす職業教育は、何とかならないものでしょうか。
日本では、職人に対する評価が低すぎると思います。
「優れた職人」に対する社会的な評価をもっと向上させるべきです。
もう一度書きますが、
日本人の手先の器用さは、世界トップレベルです。
それを生かしきれてないと思います。
ところで、なぜ、高専は人気化しないのでしょうか。
一概には言えませんが、大学卒業よりも、高専のほうが就職に有利だと思います。